Moonlight scenery

     “ It is imminent in the spring
 


欧州の端っこ、砂漠との境目で、
半島とその周縁の群島で構成されているR王国は。
主に観光で収益を上げている関係もあってのこと、
島々を周遊するための交通手段もいろいろと完備しており。
エコノミーからラグジュアリまで、
どんな機種もサービスも取り揃っておりますよの、
観光ヘリに遊覧船にクルーザーの品揃えでは、
地中海を分け合うほかの国々に引けを取らないバリエーションを誇っておいで。

 「どこぞの空軍が離着陸が難しいこと露見させて
  問題になっとるような不手際はないってな。」

 「こらこら。そういう危ない発言を軽々しくすんなって。」

第二王子の隋臣の一角を成しながら、
同時に車輛部の主任待遇でもあるウソップが、
王宮の専用機に関しての自慢を鼻高々に語ったものの、

 「でも俺、船のほうが好きなんだのにな。」

小さいころからの過保護の延長か、
随分と長いこと金づちだったものだから。
こういうお国柄だというに、
あんまり船遊びはさせてもらえないの、
下唇を突き出し、
それは判りやすくもぶうたれる王子様だったりし。

 「何だ何だ、
  それじゃあ王宮所有の船はないとか言うんじゃあなかろうな。」

 「いやいや。
  陛下や皇太子殿下の名義になってる
  客船とかクルーザーがちゃんとあるって。」

外国からの賓客をもてなす宴には、
そういう豪華な船を繰り出しての船上パーティーだって催しているが、

 「だがまあ。そういや、ルフィ名義の船はなかったよな。」

何につけ、競い合うようにしてそりゃあ甘やかしておいでの
父上兄上だったが、
そういえば、第二王子が操るとした船は、
クルーザーレベルのものさえ、まだないのが現状で。

 「あんまりな奢侈はよくないし、
  物品で判断される格付けなんてな
  薄っぺらいもんなんぞには関心持たねぇルフィじゃあるが。」

単純に“船遊びがしたいなぁ”と、
いいお日和になってくる今頃ともなりゃあ、
ひょんな折に口に出すことも増えつつあって。

  そこで、と

王陛下や皇太子殿下のお耳へ届くようにと
こちらの傍づき一同が さりげなくも囁いたところ。

 『そうそう、そういやそろそろ
  持たせてやっても良いような頃合いだよな。』

 『だからって、
  親父の趣味でごてごてしたのを押し付けてやんなよな。』

 『なにおぅ? ごてごて趣味は貴様のほうだろうが。』

ドクロに数珠にと、
不吉なんだかおめでたいんだか、
よく判らないコーデュネイトしてやがってと。
後半は互いの持ち船へのこき下ろし合戦になったので
オフリミットにさしていただくとして。(笑)
外観も装備も、
王子の気性や趣味をよくよく知っている
こちらの陣営に任せてくださいませと。
あまり波風立たせずに そうと持っていった、
隋臣長と佑筆様のご尽力の賜物で、
何とか許可と予算だけもぎ取ったのが 年明けの頃合いで。
ではと腕まくりをしたのが、車輛部のウソップかと思いきや、
本当の専門は船大工だというフランキーが、

 『よっしゃあ、俺に任せなっ。』

丸太のような腕をぶんと振り上げての、
二の腕の力こぶを むきんと盛り上げて見せたため。

 『よっしゃあ、任せたっ!』

同じようにむきんと、腕を立てての力んで見せた王子直々から、
そのようなお言葉を賜ってのこと。
車輛部のメカニックたちもところどころで手伝ってはいたが、
ほぼ彼一人で手掛けたという驚きの手腕にて。
ユニークな舳先飾りを掲げた小型船が、
ほんの2カ月でもう殆ど仕上げにかかっているという、脅威の進捗振りだとか。
小型と言っても、そこは外交大使も務める王子様の持ち船だけに、
船上でのレセプションだって催すし、
自国領の案内をして回るだけのクルーズも
何とかこなせる規模と装備でなければならず。

 『そんな高いハードルなのを、
  新入りの船大工が、しかも一人でこなせるものかねぇ。』

マリーナに来合わせていた
大型クルーザーやヨットなんぞのベテランの船長たちが、
悪気はなかろう、むしろ案じてのこと。
こういうことは経験則も大事、
若いのが気張っても出来ないことってのはあるんだと、
噂してもいるそうだけれど。

 「うっわぁ〜っ、これってホントに船なんか?」

冬にお馴染み、どんよりと重苦しい雲も遠ざかっての、
そりゃあいいお日和が続いたのでと、
建設中のアレを見に行きたいと ごね始めた王子なの、
何とかいなすのももう限界と。
建造責任者への許可を取り付けると、
傍づきの一同引き連れて、それでもお忍びという体裁で。
王族専用のマリーナの一角、
大型船用の桟橋に程近い、造船用のドッグへ向かったご一行。
真夏のそれにはまだまだ追っつかないものの、
清かに晴れ渡った青空と、
そこへと昇ってにこやかに微笑っているお天道様の明るさは、
冬場の寒さや、それでと身を縮ぢこめていたの、
すかんとどこか遠くへ掻っ飛ばすほど爽快であり。
そんな陽差しに照らし出されたお船の姿が、これまた何ともご陽気で。
船体は少し時代がかった型ながら、特に奇抜でも無さげな帆船だったが、

 「おお、このヘッドは もしかしたらライオンか?」
 「おうさ。」

女神や人魚って柄じゃなかろし、
信心の要りそうな偉人や神様ってのも、
あのルフィじゃあ有り難がらねぇだろうしな、と。
とはいうものの、
じゃあ何にもナシというのは寂しかろうから、
せいぜい陽気になるように、
どこかまんがチックなデザインの呑気なライオンを掲げたそうで。
王族の持ち船としての威容がどうこう言うような、
煩さがたも居ないじゃなかったが、

 『こういうユルいデザインで安心させといて、
  実はいろいろ装備があるんだと、そっちをちらりと教えたところが、
  そのままで良い、むしろその方が落差があっていいと、
  逆に乗って来たほどでな。』

あ、これルフィには内緒な。
何を仕掛けてあるかじゃあなく、
自分より先に他の奴に見せたって 怒りかねねぇし…と。
そこのところの機微もきっちり把握なさっておいでの船大工様、

 「リクエストが全部フォローしてみたつもりだ。
  芝生の甲板に、生け簀つき大型冷蔵庫つきのダイニングキッチン。
  船上でもぎたての果物が楽しめるような本格ガーデニングの設備と、
  王宮との様々なツールで連絡が取り合える通信室に、
  何が起きても万全の医務室と蔵書満載の図書室…あたりは、
  ルフィのリクエストじゃなさそうだが。」

そりゃあ広々した大浴場に、
甲板には背の高いシンボルツリーが植わっていて、
その枝には大きなブランコ。
主帆柱の頂上には、
切り離しての別な帆を張り、
風に乗せれば、結構な高さまで上がる凧型の見晴らし台…と。
どんな秘密基地ですかというほどの隠し技のあれこれが盛り沢山であり。
これでもまだ他に内緒な部分があるというから、

 「…お前、実はどっかの秘密結社のお抱え船大工なんじゃあ。」
 「そんなややこしいもんには、生憎となった覚えはないぞ。」

大それたものを例えられてもあっさりと受け流し、
それより重要か、
すべり台になるステップの、角度とタイミングはこんなもんか?などと。
微調整の利くところへのリクエストを、第二王子から承っている辺り。
これでも十分びっくり箱な船だというに、
まだまだ手が入るらしい、主任大工様の意気軒高ぶりへこそ、
おいおいと、苦笑が絶えなんだらしいお傍衆の皆様であったが。

 「……?」

ブランコだ大きいなぁ、チョッパー押してくれねぇか?
それとも一緒に乗っかるかと。
無邪気に駆け回り、あちこち見て回っていたお元気王子のお声が、
不意に、

 「あ………、あぁ?」

声だけ聞いていると間が抜けていた声音だったものの、
何だどしたとそちらを見やった一同の眸に、
空より深色の海とそれから、
そこへと映えるサーモンカラーのジャケット姿だった王子とそれから…。
見覚えのない、びしょ濡れのいかつい大男が立っており。

 「そこの坊主はもしかして、ルフィ王子の…。」

あまりに無防備に駆け回っていたので、まさか本人とは思われなんだか。
せいぜいお付きの話相手とでも思われたらしかったが。

 “…ってことは、国内のもんじゃあねぇな。”

国民の総てが全部、一人残らず王宮を支持しているとは限らぬが、
それでもこの王子の無邪気なお顔は、
ぽっと出の政治家や下手なアイドル以上に認知されているはずで。
それに気がつけないとはと、
大きな げんのうで自分の逞しい肩先をとんとんと叩いたフランキー。
これが普通一般の(?)やんごとなきお人を取り巻いた空気なら、
危険な空気というか兆候と、気づいたと同時、
気づいた者から漏れなくアクションを起こしていなければならないところだが。

 「あんた何者っ! せっかくのコーデュネイトを濡らしてくれてっ。」
 「あああ、よくもよくも釣竿受けを潰しやがって。」
 「薬草のプランターをよじ登りの足場にしたなっ!」
 「ナミさんを怒らせるとは、身の程知らずが。」

大柄武骨な不審者だってだけでなく、
その無作法さが船の装備や王子の装いをダメにしたとお怒りの、
傍づきの皆様だったりしたのであり。
しかもしかも、

 「何だ何だ、貴様らには用はねぇ。」

それより王子を出せという、
交換条件への人質のつもりか。
バナナのような指も大きい、がっつり大ぶりな手を伸ばし、
一番手近にいた少年の腕を取ろうとしかかった…ところが、

 「…おっと。
  それ以上暴れると、
  地獄へのクルーズに出掛けることになっちまうぞ?」

その手の先に待っていたのは、
キョトンとドングリ目を見開いていた、無邪気な坊やではなくて。
鞘から抜き放たれての、陽を浴び、まばゆく濡れそぼつ、
研ぎ澄まされた和刀の切っ先。
そして、それを構えるは、
王子の前へといつの間にかその身をすべり込ませていた、一人の男。
見るからに大男ではないというに、
お仕着せの警護の制服の上からでもようよう判る、
隆とした筋骨をたくわえし身が。
威嚇以上の威容をたたえ、刃以上の切れ味で睨み据えてくる迫力の冴えは、

 「う…。」

場慣れした身であるはずな侵入者の大男を、
あっさり ぐうと黙らせてしまい。
そこへと畳み掛けるのが、

 「覚悟しなっ!」
 「ゲンノショウコの恨みだ、こらっ!」
 「ここの細工は俺が手伝ったんだぞ、この野郎っ。」

まずはと隋臣長が蹴り倒してのむぎゅうと踏みつけ、
そこから勢いつけての寄ってたかっての賊退治へと転じておいで。

 「ああこらこら、弱いもの苛めはいかんぞ。」

見かねた船大工さんが、そんなお声をかけたほどで。
王宮のお庭の桜もそろそろ蕾が膨らみ始める頃合いで。
背条を伸ばして駆け出す春は、もうすぐそこまで来ておりますよ?


   …………………いや、
   春が来ずともお元気な皆様なのは
   重々判っておりますが。



    〜Fine〜  13.03.07.


  *お久し振りの王宮です。
   不審者といや、フランキーさんが登場したおりも、
   寄ってたかって何者だお前という騒ぎになってたような。


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